弁護士の料金を決める「経済的利益の額」とは?
長崎国際法律事務所で中小企業を主なクライアントとする弁護士をしている谷直樹です。
この記事では弁護士の料金について、その算定のときに出てくる「経済的利益の額」の意味について詳しく解説します。
弁護士から見積もりを出してもらったときに依頼を検討されている方がわかりにくい概念の一つがこの「経済的利益の額」です。
弁護士の立場からこの「経済的利益の額」をわかりやすく解説しましたので、弁護士への依頼を検討されている方、弁護士費用について詳しく知りたい方はぜひお読みください。
また、特に中小企業の経営者の方や個人事業主の方で弁護士の効率的な活用法や費用負担をおさえるノウハウを知りたい方には電子書籍も出版しています。こちらもおすすめですのでどうぞ試し読みしてみていただければと思います。
目次
弁護士の着手金や成功報酬は経済的利益の額で決まる
まず、基本的な部分から解説します。
弁護士に裁判の代理など事件の処理を依頼するときの料金体系は着手金と成功報酬を組み合わせる方式が一般的です。
着手金とは事件処理を依頼するときに弁護士に払う料金、
そして、成功報酬とは事件終了時に処理が上手くいった場合に発生する料金です。
この着手金と成功報酬はどちらも次のような計算方法で算定されます。
経済的利益の額×〇%
つまり、弁護士に依頼する事件ごとの「経済的利益の額」に一定の料率(パーセンテージ)をかけ合わせることで着手金と成功報酬が計算されるということですね。
このパーセンテージには相場というものがあり、弁護士ごとにそれほど大きな違いはないのが現状です。具体的には、経済的利益の額が300万円以下の場合、着手金はその8%、成功報酬は16%というのが相場です。
着手金、成功報酬については下の記事で詳しく解説していますのであわせてお読みください。
>>弁護士が教える着手金の負担を軽くするための7つの方法
>>弁護士が教える成功報酬の落とし穴と対策
経済的利益の額とは「事件処理の結果得られる利益をお金に直した場合の金額」
着手金についても成功報酬についてもパーセンテージには相場がありますから、逆に言うと、事件の経済的利益の額がわかれば弁護士に払う料金のおおよその目安がわかるということになります。
そこで、経済的利益の額とは何か?ということが問題になります。
簡単に言うと、経済的利益の額とは「その事件処理の結果、依頼者が得られる(得られた)利益をお金に直した場合の金額」のことです。
これはお金の支払を求める裁判の場合はとても簡単です。
たとえば、取引先に対して未払代金100万円の支払を求める裁判を弁護士に依頼する事件の場合、その事件処理が上手くいけば依頼者には100万円の利益が入ってくることになります。そのためこの場合の経済的利益の額は100万円になります。
事件の経済的利益の額が100万円ですから、着手金はこれを根拠に算定されます。相場通り8%の着手金であれば着手金は8万円ということになります。
一方、成功報酬については必ずしも100万円が経済的利益の額となるとは限りません。なぜかというと、100万円の支払を求める裁判でも請求金額の全額の支払が認められるとは限らないからです。
たとえば、100万円の請求のうち、20万円については時効にかかっていて請求が認められず80万円の一部認容判決が出たとすると、得られた経済的利益の額は100万円ではなく80万円となります。そのため、80万円の16%、すなわち12万8000円が成功報酬となります。
もちろん請求が全く認められず全部敗訴した場合、得られた経済的利益の額は0円ですから当然、成功報酬も0円となります。
金銭請求以外の場合もお金に直して経済的利益の額を算出する
上の例のように金銭の支払を求める裁判の場合はとてもシンプルです。
しかし、弁護士に依頼するのはなにもお金の支払を求める裁判ばかりではありません。たとえば、自分の所有する建物の明渡を求めて訴えを起こす場合、請求するのはお金ではありません。
この場合も着手金や成功報酬は経済的利益の額に基づいて算定するのが一般的です。しかし、お金の支払を求めるわけではないのでそのままでは経済的利益の額を出すことができませんね。
そのため、こうしたケースでは請求の目的をお金に換算して経済的利益の額を出すという一手間が必要になります。
たとえば、所有権に基づく請求であればその所有物の時価を基準に経済的利益の額を出すというのが一般的です。
金銭の支払請求以外の事件で経済的利益の額を出す際の考え方については日弁連の弁護士報酬基準で定められており、多くの弁護士もそれに沿って算定を行っています。
主なものを挙げると次のとおりです。
【将来の債権】
債権総額から中間利息を控除した額
【継続的給付債権】
債権総額の10分の7の額。ただし期間不定のものは7年分の額
【所有権】
対象たる物の時価相当額
【占有権、地上権、永小作権、賃貸権、使用借権】
対象たる物の時価の2分の1の額。ただし、権利の時価がその時価を超えるときは権利の時価相当額
【建物についての所有権に関する事件】
建物の時価相当額に敷地の時価の3分の1の額を加算した額
自分が訴えられる側の場合の経済的利益の額の考え方
今までの説明は主としてこちらが相手方に対して何らかの請求を行う場合に事件処理を弁護士に依頼するケースを想定していました。
しかし、逆に自分が誰かから訴えられる場合に弁護士に裁判対応を依頼するというケースもあります。つまり自分・自社が被告になる事件です。
この場合の着手金・成功報酬も経済的利益の額に基づいて算定するという基本は変わりません。そして、この場合の経済的利益の額はこちらが訴えるケースと同様に考えることができます。
たとえば、製品の売主から自社に対して未払の売買代金の支払を求める訴えを起こされ、その裁判対応を弁護士に依頼するケースを考えてみましょう。
相手方からの請求金額が200万円だったとすると、自社が被告となる場合の経済的利益の額も200万円となります。なぜなら、裁判対応の結果、相手方の請求を排除することができれば払うはずだった200万円を払わなくて済みますから、結局自社には200万円分の経済的利益が得られるということになるからです。
そのため、上の事例では相場通りであれば被告側も200万円に8%をかけて16万円が弁護士への着手金となるでしょう。
一方、事件終了時の成功報酬に関しては少しだけ複雑になります。
たとえば、200万円の支払を求められた事件で相手方の請求が全部棄却された場合、自社が得た経済的利益の額は200万円です。相手方の請求通りであれば200万円支払わなければならなかったところ、裁判対応の結果、払うべき金額は0円になったわけですから自社が獲得した利益は200万円となるからです。
また、200万円の請求のうち、50万円の支払を認める判決が出た場合、得られた経済的利益の額は150万円となります。裁判対応を行ったことで支払を求められていた金額のうち150万円を払わずに済んだため、これが自社の得た経済的利益となるからです。
経済的利益の額が算定不能の場合は「800万円」とみなされる
以上は経済的利益の額を算定することができる事件の場合です。
しかし、弁護士への依頼の中にはどうしても経済的利益に換算することが困難な事件というものもあります。
たとえば、週刊誌などに事実無根のゴシップ記事を書きたてられて名誉を毀損された場合、民法上、週刊誌を発刊している会社に対しては謝罪広告の掲載を請求することが可能な場合があります。
(名誉毀き損における原状回復)
民法
第723条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
この場合、謝罪広告は主として精神的な満足を得るために行われるため、金銭への換算が難しいことが多いでしょう。この場合、たとえば広告掲載料などを根拠に便宜的に経済的利益に換算するやり方もありますが、正面から「算定不能」として扱う場合もあります。
経済的利益の額が算定不能の場合、着手金や成功報酬が発生しないかというと、そういうわけではありません。
一つのやり方としてはたとえば固定の金額、たとえば10万円、20万円、というように着手金・成功報酬の額を決めてしまうやり方があります。この場合の金額は弁護士ごとに異なります。
また、経済的利益の額が算定不能な場合、800万円を経済的利益の額とみなして計算する弁護士も多いはずです。なぜ800万円なのかというと、先程から出てきている弁護士報酬基準で、「経済的利益の額が算定不能の場合、800万円とみなす」というルールになっているからです。
経済的利益の額が800万円の場合、相場どおりであれば着手金は73万円、成功報酬は146万円となります。
しかし、これは多くの場合、高すぎるというケースが多いでしょう。そのため実際には弁護士はこの金額を一応の基準にしつつもっと安い金額で着手金、成功報酬を算定してくれることが多いはずです。
経済的利益の額が算定しにくい事件では弁護士ごとに着手金や成功報酬の額に大きなバラつきが出る可能性があるため、通常の事件以上に複数の弁護士に見積もりを出してもらって比較することが大切になります。
まとめ―経済的利益の額の算定は弁護士ごとに異なる可能性があるので注意する
以上、この記事では弁護士の着手金や成功報酬を算定する際の重要な要素である経済的利益の額について考え方を解説しました。
弁護士の料金には相場があり、着手金や成功報酬のパーセンテージには弁護士ごとにそれほど大きな違いがないのが現状です。
しかし、そのパーセンテージをかける経済的利益の額の算出の仕方は弁護士ごとにまちまちである可能性があります。特に金銭請求以外の事件、とりわけ経済的利益の額が算定しにくい事件の場合、算定される経済的利益の額に幅が出る傾向があります。
そのため、弁護士への正式依頼に先立って複数の弁護士から見積もりを出してもらい、料金の計算方法についても詳しく説明をしてもらうことが大切です。
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そのほか、弁護士の費用について詳しく知りたい方は次のページも参考にしてみてください。
>>弁護士が教える着手金の負担を軽くするための7つの方法
>>弁護士が教える成功報酬の落とし穴と対策