違約金に関する条項

この条項には要注意―違約金と免責

契約書の中に盛り込まれる条項のうち特に注意する必要があるのが違約金と免責に関する条項です。中小企業では、会社の規模によるものの契約書の作成・チェックを専属で行う社員がいないのは珍しくありません。この場合、取引を担当する営業担当者が契約書の雛型を流用したり、取引先から渡された契約書の文案をほぼそのまま受け入れたりすることも多いでしょう。しかし、こうした場合であっても違約金と免責に関する条項だけはしっかり注意してチェックしなければなりません。

違約金とは「契約違反があった場合に必ず払うことになるお金」

まず、違約金について説明します。違約金とは簡単に言うと、契約違反があった場合にその代償として支払う金額のことです。契約の違反があると、そのせいで様々な損害が相手方の企業に発生します。たとえば、機械部品を制作して販売する取引であれば、注文のあった機械部品が納期に間に合わないと取引先の製造ラインに穴が開くことになります。そのせいで取引先が本来、売れるはずだった取引の機会を逃したとしたらその損失を注文先の企業に損害賠償として請求できることになります。

しかし、契約違反があった場合にその損害の額が具体的に算定できない場合もあります。たとえば、先程と同様、機械部品の販売のケースでいうと、部品の納品が遅れたために発注企業の新製品の発売開始が遅れ、そのせいで同種の製品に市場シェアをとられてしまったという場合、発売開始により具体的にどの程度の市場シェアの減少があったのかがわからないと損害の額を特定することができません。この場合、損害額がわからないと発注先の企業に対して損害賠償を求めるのは難しくなります。

こうしたケースで威力を発揮するのが契約書の違約金に関する条項です。たとえば、上で述べたような納期の遅れについて、「納期が30日以上遅れた場合は違約金として5000万円を支払う」という違約金条項があれば、客観的に納期が30日以上遅れてさえいれば5000万円を発注先企業に請求することが可能となります。納期の遅れのためにどの程度の損害が発生したのかということを考える必要はありません。

このように違約金条項は非常に強力なため、相手方の契約違反に対して違約金条項を定めておくことができれば取引上非常に有利な立場に立つことができます。逆に、軽微な契約違反に対して自社が高額の違約金の支払を請求されるような条項が入っていると、自社が大きなリスクを抱えることになります。

この意味で、契約書に違約金条項が入っているかどうかをチェックすることは自社の利益を守るために非常に重要です。違約金条項が入っている場合にはその内容が自社にとって不利な内容でないかどうかを検討する必要がありますし、違約金条項が入っていない場合は自社に有利な違約金条項を入れるべきかどうかということを考えなければなりません。

違約金条項には2種類ある―損害賠償額の予定と違約罰

一口に「違約金」と言っても、法律上は実は2種類の違約金があります。それが「損害賠償額の予定」と「違約罰」です。違約金条項を契約書に入れる場合、この2種類のうち、どちらであるかということを意識する必要があります。

損害賠償額の予定

まず、「損害賠償額の予定」について説明します。損害賠償額の予定とは、契約違反があった場合に違反者に対して請求できる損害賠償の金額を予め決めておいたものを意味します。たとえば、先程挙げた部品メーカーの納期遅れの場合、違約金5000万円というのが損害賠償額の予定だったとしましょう。この場合、納期遅れにより生じた損害の額が具体的に特定できない場合や実際の損害額が5000万円を下回る場合でも5000万円を相手方に請求できるという結論は変わりません。

しかし、納期遅れによる実際の損害額が5000万円を超える金額、たとえば9000万円だったというケースでは問題が起きます。この場合、あくまでも損害賠償の金額は5000万円と予定されているため、実際の損害額がこれを超えたとしても相手方に5000万円を超える金額の支払を求めることはできません。つまり、違約金が「損害賠償額の予定」だった場合、契約違反があるとその予定金額の支払を求めることはできるものの、予定金額を超えた実損があっても実損分の全てを請求することはできなくなるということです。

法律上、違約金に関する条項を契約書に入れた場合、それは損害賠償額の予定と推定されます。

民法420条(賠償額の予定)
1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

つまり、単に契約書に「違約金として金〇〇円を支払う」と書かれていた場合、それは上で説明した賠償額の予定と判断されてしまうということです。もちろん金額が十分高ければ問題になりませんが、予想外に大きな実損が生じてしまうと損害の全額の賠償を求めることができなくなるというリスクがあります。

違約罰

これに対して、「違約罰」とは一種のペナルティとしての違約金です。これは契約違反があった場合に一種の罰金として相手方に違約金額を支払わせるというものであり、実損分は別途請求することが可能です。違約罰として違約金条項を入れておくと、実損が膨らんだ場合でも違約金を超える賠償を請求できます。逆に、自社が契約違反を問われる局面では非常に不利な効果が生じるため注意が必要な条項でもあります。

上で説明したとおり、契約書の違約金条項は損害賠償額の予定と推定されるため、単に「違約金」とだけ書くと違約罰ではなく損害賠償額の予定と判断される可能性が高いといえます。そのため、違約罰としての違約金に関する条項を入れたい場合はその旨を契約書上明記する必要があります。この書き分けには色々な方法があるため、特に重要な取引の場合は弁護士などの法律専門家に契約書のチェックを依頼することをお勧めします。


次頁では契約書作成のポイント⑤ 免責に関する条項について解説します。