免責に関する条項

契約書の中で免責条項が重要なのはリスクが大きいため

違約金条項と並んで、契約書の中に盛り込まれる条項のうち特に注意を要する条項が免責条項です。もし取引先から渡された契約書をチェックする際、時間をかけられない場合でも免責条項がないかどうかは必ず調べなければなりません。それは契約書の他の条項以上に免責条項が企業にとって大きなリスクをはらんでいるためです。

免責とは「責任を免除する」という意味

免責とは読んで字の通り「責任を免除する」という意味です。免責条項がない場合、たとえば納品した商品の品質に問題があったり、納期に遅れがあったりした場合、契約違反として相手方に対して損害の賠償を求めることができます。

民法415条(債務不履行による損害賠償)
1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 (略)

契約違反があった場合、本来、そのために生じた損害を賠償しなければならないところ、免責条項を置くことでこのような責任の全部または一部を免除することができます。「免除」とは責任を負わなくてよいという意味です。先程の例で言うと、たとえば、「納期に遅れたがあった場合であってもその日数が30日を超えないときは、買主はそれにより生じた損害の賠償を求めることができない」という免責条項があれば、30日以内の納期遅れがあっても損害賠償をする必要はないということになります。

これはおわかりなると思いますが非常に強力な効果を持った条項です。免責条項によって責任を負わないとされている場合、たとえ契約違反による損害が数千万円、数億円にのぼっていたとしても原則として相手方に賠償を求めることができません。1個の免責条項のせいで、場合によっては会社の経営が傾くほどの影響が出てしまうおそれがあります。だからこそ、契約書をチェックする際は免責条項の有無とその内容は必ず検討しなければなりません。

強力な免責条項を上手く使って有利にビジネスを進める

逆に、このような強力な効果を持つ免責条項を上手く契約書に盛り込むことができれば自社のビジネスを有利に進めることができます。たとえば、先程挙げたように一定期間の納期の遅れによる損害賠償を免責する条項を入れておくことで自社の製造ラインに万が一遅れが出てしまった場合でも契約上の責任を問われずに済むことができます。もちろん企業間取引における信用の問題は出てきますが、少なくとも法的責任を問われずに済むことで余裕をもった製造ラインの管理を行うことが可能です。

免責条項には色々な種類のものがありますが、たとえば次に挙げるようなものを上手く使うことで取引を有利に進めることが可能となります。

①軽微な契約違反による賠償責任を免責する
契約違反の程度が重大でないものについて賠償責任を免除しておく規定です。上で挙げた一定期間の納期の遅れについて免責する条項もこのタイプの免責条項といえます。取引を進める上で多少の契約違反が起こることはつきものです。重大ではない契約違反についてあらかじめ免責としておくことで、いちいち損害の賠償や代金の値引きといった対応を行う必要がなくなるため、事務処理上も楽になります。

②商品・製品・サービス等の品質・性質の一部を保証対象から外す
取引の目的物である商品やサービスの品質に問題があった場合、相手方から契約上の責任を追及されるリスクがあります。これに対して、商品・サービスの品質のうち一定範囲を保証の範囲から外すという条項を入れることで、その範囲内で生じた問題については賠償責任を負わないようにすることも可能です。たとえば、コンピュータ・プログラムを納品する契約の場合、そのプログラムが正常に動く環境(たとえば、windowsのOSのみ)を限定するような条項がこのタイプの免責条項の一例です。こうした条項を入れておけば、納品したプログラムがMacのOSで動作しなかったとしてもその責任を問われることは原則としてなくなります。

③損害賠償の範囲を制限する
契約違反があった場合にどの範囲まで損害賠償をするかという形の免責条項もよく使われるものです。たとえば、機械部品の販売を行った場合、その機械部品に不具合があったとします。この場合、不具合のある機械部品を使って作った製品が正常に動作しなかったために作り直しが生じた場合、その作り直しに必要な費用が損害になるということは誰でもわかります。しかし、その作り直しが必要になったために完成品の販売が遅れてしまったために市場シェアが減少してしまったとか、有利な取引のチャンスを逃してしまったという場合にその損失まで賠償しなければならないとしたら納品する業者としてはかなり大きなリスクを抱えることになります。そこで、免責条項として、「損害賠償の範囲は契約違反から直接生じた通常の損害の範囲に限られる」という条項を入れることで、損害賠償の範囲を限定するということが契約実務ではよく行われています。

④損害賠償の上限額を定める
③と似たタイプの免責条項として、契約違反による損害賠償について賠償金の上限額を一定額までと設定しておくものもあります。たとえば、「契約違反により生じた損害の賠償は〇〇万円を上限とする」というような条項がこのタイプです。こうした条項を入れておくことで万一、契約に違反してしまった場合でも損害賠償責任の上限をあらかじめ予測しておくことができるため、いわゆる青天井と呼ばれるような超高額の損害賠償を求められる危険性を減らすことができます。

免責条項を取引の相手方に認めてもらうには?

このように免責条項は使い方次第で自社のビジネスを安全かつ有利にするために非常に役立つツールです。しかし、効果が強力なだけに取引相手が免責条項を入れることを嫌がるというケースも珍しくありません。

自社に有利な免責条項を契約書に盛り込むためのコツは2つあります。

①自社で契約書の第1案を作成して提示する
②特に重要な免責条項を選んで入れるようにする

まず、1つ目のコツは契約書の文案を相手方に出してもらうのではなく自社で作って相手方に提示するということです。特に中小企業同士の取引の場合、相手方企業も契約書の中身にそれほど注意を払っていないというケースがあります。この場合、自社に有利な免責条項を盛り込んだ契約書を文案として提示しておけば修正要望もなくそのまま通ってしまうということは決して珍しくありません。また、修正要望が入るとしても予め自社に有利な条項を盛り込んで文案を作っておくことで交渉面で有利になります。提示された文案に対してケチをつけるというのは心理的にやりにくいため、一部の条項について修正要望が入ったとしても全体として自社にとって有利な契約条項を維持できることが期待できます。

2つ目のコツは相手方から契約書の文案を提示された場合でも使える考え方です。それは「自社にとって特に重要な免責条項を選んで契約書に入れる」ということです。相手方企業が契約実務に慣れている場合、当然、免責条項には敏感になります。上で挙げた全ての種類の免責条項を自社に有利な形で入れることができればもちろんよいのですが、全て入れようとすると相手方企業から「待った」がかかる可能性が上がりますし、契約交渉が難航するおそれもあります。逆に、自社にとって特に重要な免責条項を精選して契約書に入れるようにすることで相手方からもその要望を受け入れてもらいやすくなります。

どのような免責条項を盛り込むのが自社にとって重要なのか、それをどういった契約文言で表現し、相手方企業に提示して条件交渉するかということは取引の内容や相手方との関係性によっても変わってきます。契約交渉にあたって免責条項をはじめとした契約条項について疑問があるときは契約実務に精通した弁護士などの法律専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。


次頁では契約書作成のポイント⑥ 中途解約に関する条項について解説します。