売掛金回収の弁護士費用の相場と費用をおさえるコツ
取引先が売掛金を払ってくれない。そんなときは弁護士に依頼して回収を図るのが効果的です。
一方、弁護士費用が高額になるために弁護士への依頼をためらう企業もめずらしくありません。
この記事では売掛金回収を弁護士に依頼する場合の弁護士費用の相場について解説します。
その上で高額というイメージのある弁護士費用をおさえて効率的に売掛金を回収するためのノウハウもまとめます。
この記事を書いている私は企業法務を主に取り扱う弁護士です。執筆者について詳しく知りたい方はこちらのプロフィールをご覧ください。
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目次
売掛金とは何か
売掛金回収の弁護士費用について解説する前提として、まず、売掛金とは何かについて簡単に説明します。
売掛金とは商品やサービスについて一定の支払期限までに支払われることになっている代金のことです。読み方は「うりかけきん」です。「ばいかけきん」ではありません。
売掛金の「掛」というのは「掛け売り」、「掛け買い」という言葉で使われる「掛け」のこと。つまり、「すぐに代金を払うのではなく一定の期限まで支払を待たせる」という意味です。
たとえば、機械部品を取引先に売る際、納品後1ヵ月以内に代金を支払うという約束になっていたとすると、この代金は売掛金ということになります。
売主の立場から見ると売掛金ですが、これを買主の立場から見ると買掛金となります。買掛金の読み方は「かいかけきん」です。
売掛金と未払代金はほぼ同じ意味です。どちらもまだ支払われていない代金という意味では同じです。
また単に債権という呼び方をするときもあります。ただし、債権には売掛金債権(商品・サービスの代金債権)だけでなく、たとえば貸金債権なども含まれます。つまり、債権は売掛金を含むより広い概念ということです。
売掛金回収の方法
売掛金が支払期日までに支払われない場合、これを回収するための方策を講じる必要が出てきます。
この回収を怠ると、せっかく商品やサービスが売れて売上が立ったのに実際には現金が入ってこないことになります。この状態が続くといわゆる黒字倒産のリスクも生まれます。
売掛金回収は企業が健全に成長していくためには不可欠の取組みです。
売掛金回収の方法としては主に次のようなものが考えられます。
- ■ 請求書の送付(内容証明郵便を含む)
- ■ 支払督促の申立
- ■ 少額訴訟の提起
- ■ 通常訴訟の提起
- ■ 財産の差押え
以下、それぞれの方法について内容を簡単に解説しておきます。
売掛金回収の方法① 請求書の送付
売掛金回収のために一番初めにするのは未払になっている取引先に対して書面を送って正式に支払を求めることです。
請求書は普通、支払期限前に「この期日までに支払ってください」という内容で送るものですが、すでに支払期限を過ぎてしまっている相手方に対して送る場合、記載内容はかなり異なります。
この場合の請求書には、相手方がすでに支払期限を過ぎており債務不履行状態になっていることを明確に記載して正式に支払を求めます。
一定の期限内に支払がない場合は法的措置を講じる可能性に触れる場合もあります。この場合、請求書は訴訟の予告ないし警告という意味合いも含まれます。
普通郵便や書留、レターパックなどで送るケースもありますが、自社の本気度を示す意味で内容証明郵便にする場合もあります。
内容証明郵便とは書面の内容を郵便局が証明してくれる郵便サービスです。書面の記載内容について後から証拠として使うつもりであるという意味ですから、「訴訟も辞さない」という意思を相手方に伝える効果があります。
この内容証明郵便は弁護士に依頼せずに自社で作って出すことももちろん可能ですが相手方への威嚇力を強めるために弁護士に依頼して弁護士名で作成・送付してもらうのも効果的です。
売掛金回収の方法② 支払督促の申立
内容証明郵便などで支払を求めても相手方が支払に応じない場合、法的措置を講じる必要が出てきます。
一番手軽に使えるのが簡易裁判所に支払督促を申し立てるという方法です。
支払督促とは相手方に一定額の金銭の支払を、裁判所を通じて正式に請求する手続です。裁判所を使う手続ですが裁判とは異なります。あくまでも「裁判所を通じて請求する」というところがポイントです。
裁判ではありませんから支払督促の内容が正しいかどうかを裁判所で審査することはありません。形式に不備がなければ裁判所は支払督促を相手方に送達してくれます。
この支払督促に対して相手方が特に異議を出さなければ支払督促は裁判で判決を得たのと同じ効力を獲得することになります。判決と同じ効力ということはつまりそれを持っていけば裁判所が相手方の不動産、預金口座などの財産の差押えを認めてくれるということです。
もっとも、支払督促にも難点があります。それは相手方が支払督促に対して異議を申し立てると裁判に移行するということです。
つまり、相手方が異議を述べなければそのまま判決を得たのと同様の結果を得ることができますが、異議があると支払督促の効力は失われて結局は裁判で決着を得なければならなくなるということです。
この支払督促は手続自体は非常に簡単なので弁護士に依頼せずに自社で行うことも十分可能です。しかし、異議が出されると裁判になってしまうので、支払督促を使ったほうがよいケースかどうかは弁護士のアドバイスを受けつつ決めるのがよいでしょう。
支払督促の手続について詳しくはこちらの裁判所ウェブサイトをご覧ください。
>>支払督促|裁判所(外部サイト)
売掛金回収の方法③ 少額訴訟の提起
支払督促は異議が出されると結局は裁判に移行してしまいます。そのため、相手方が争ってくる可能性が高いケースでは今一つ使いにくい制度です。
相手方が争ってくる可能性は高いものの、契約書などの証拠がきちんと揃っており問題なく勝てるというケースでは支払督促ではなく少額訴訟を起こすという選択肢もありえます。
少額訴訟はその名の通り、請求金額が小さいケースで使うことのできる裁判手続です。具体的には請求金額が60万円以下であれば少額訴訟を使うことができます。
少額訴訟のメリットは裁判手続が原則として1回の期日で終了するという点です。普通、裁判を起こすと半年から1年近く判決まで時間を要することがめずらしくありませんが、少額訴訟では訴訟提起から約2ヵ月程度で全ての手続を終えて判決を出してもらうことができます。
その代わり、少額訴訟では1回目の期日に即時に取調べの可能な証拠を提出する必要があります。期日に出頭できれば証人でもよいのですが、通常は契約書、請求書、受領書、納品書といった書面の証拠がしっかり揃っている場合に使われます。
少額訴訟では申立前にきちんと証拠を揃えておくことが大切ですので、弁護士にアドバイスを受けつつ進めるのがお勧めです。
少額訴訟の手続について詳しく知りたい方はこちらの裁判所ウェブサイトをご一読ください。
>>少額訴訟|裁判所(外部サイト)
売掛金回収の方法④ 通常訴訟の提起
少額訴訟は売掛金が60万円以下の場合に使えます。逆に言うと、請求金額が60万円を超える場合は少額訴訟は使えません。
その場合、通常の訴訟(民事裁判)を起こして取引先に対して売掛金の支払を求めることになります。
通常の訴訟は請求金額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に提起します。
簡易裁判所にせよ地方裁判所にせよ、通常訴訟で戦う場合はきちんとこちらの言い分を整理し、証拠も準備する必要があります。そのため弁護士に依頼して代理人として手続を進めてもらうのが適切です。
弁護士費用の面でどうしても弁護士を使えないというケースでは、いわゆる本人訴訟として戦っていくことになりますが、その場合も適宜弁護士にアドバイスを受けつつ手続を進めるべきです。
売掛金回収の方法⑤ 財産の差押え
支払督促にせよ、少額または通常訴訟にせよ、裁判所にこちらの請求を認めてもらっただけでは実は売掛金の回収が実現できるとは限りません。
判決で支払を命じられてもそれを無視して支払わない者は現実に存在します。
この場合、どう対応するかというと裁判所に出してもらった支払督促や判決に基づいて相手方の財産を差し押さえるということになります。財産の差押えの手続のことを強制執行と呼びます。
強制執行をすることで相手方が有する不動産(土地・建物)、動産(工業機械など)、預金、別の取引先に対する債権などを差し押さえることができます。そして差し押さえた財産を競売にかけるなどして生じた金銭から売掛金を回収することができます。
この強制執行の手続は自社で行うことも可能ですが、準備しなければならない書面や添付書類などがなかなか複雑ですので弁護士に依頼して行うとスムーズです。
売掛金回収の弁護士費用の相場
ここまでで売掛金回収の方法について簡単に解説しました。
では、こうした売掛金の回収を弁護士に依頼する場合、料金・費用はどのくらいかかるのでしょうか。売掛金回収の弁護士費用の相場を解説します。
売掛金の回収を含め弁護士費用には一定の相場というものがあります。
弁護士の全国団体である日弁連が定める「弁護士報酬基準」に沿って多くの弁護士が料金を決めているのでこの弁護士報酬基準を見れば弁護士費用の相場がわかる仕組みになっています。
以下、弁護士報酬基準に沿って手続ごとに弁護士費用の相場をまとめてみます。
【訴訟を弁護士に代理して行ってもらう場合】
請求金額が300万円以下の場合、着手金が8%、成功報酬が16%というのが相場です。
ただし、着手金については最低額を10万円程度と定めている弁護士が多いでしょう。
そのほか、実費として収入印紙と郵便切手代がかかります。
【支払督促を弁護士に代理して行ってもらう場合】
請求金額が300万円以下の場合、着手金が2%、成功報酬が8%が相場です。
ただし、着手金については最低額を5万円程度と定めている弁護士が多いでしょう。
実費として収入印紙と郵便切手代もかかります。
【訴訟+強制執行をあわせて弁護士に代理して行ってもらう場合】
この場合、訴訟について請求金額が300万円以下であれば着手金8%、成功報酬が16%が相場です。着手金の最低額はやはり10万円程度でしょう。
加えて強制執行について訴訟の着手金の3分の1の金額、成功報酬として訴訟の成功報酬の4分の1の金額を別途請求するのが相場になるでしょう。
【訴訟を起こさずに交渉での売掛金回収を弁護士に依頼する場合】
交渉を弁護士に依頼する場合、売掛金の額が300万円以下であれば着手金2%、成功報酬4%が相場です。ただし、着手金の最低額は10万円程度であることが多いようです。
訴訟提起を行わないため実費として収入印紙代はかかりませんが、相手方に対して内容証明郵便等を送付する場合その実費の負担を求められる場合があります。
【弁護士に内容証明郵便の作成を依頼する場合】
弁護士名で内容証明郵便を作ってもらう場合、手数料は3万円~5万円程度が相場と思います。
内容証明郵便の作成について交渉事件として受任する弁護士もいるでしょう。その場合は上記【訴訟を起こさずに交渉での売掛金回収を弁護士に依頼する場合】の弁護士費用が相場となるでしょう。
まとめると、売掛金回収の弁護士費用はどういう事件処理の方法で頼むかによって相場が変わってきます。
訴訟対応を頼む場合に比べて、支払督促、交渉、内容証明郵便の作成・送付といった処理方針であれば弁護士費用をおさえることができるため、自社の経済状態と債権額などをふまえて依頼方法を検討するとよいでしょう。
売掛金回収の弁護士費用をおさえるノウハウ
売掛金回収の弁護士費用の相場を確認したところで、この費用を節約するための方法についても解説していきます。
方法としては、次の3つが考えられます。
- ■ 弁護士費用をおさえる方法① 訴訟以外の方法で弁護士に依頼する
- ■ 弁護士費用をおさえる方法② 本人訴訟で対応する
- ■ 弁護士費用をおさえる方法③ 弁護士の顧問契約を利用する
なお、弁護士費用をおさえるための最も一般的な方法としては「法テラスを使う」というものがあるのですが、これは企業の売掛金回収の場合は使えません。
なぜかというと、法テラスの民事法律扶助制度は個人の事業(=ビジネス・商売)に関係しない法律問題を扱うものだからです。会社の相談や個人事業主のビジネスに関する法律案件については法テラスを利用することはできません。
弁護士費用をおさえる方法① 訴訟以外の方法で弁護士に依頼する
売掛金回収の弁護士費用をおさえる方法として第一に考えられるのは弁護士に依頼する事件の種類を変えることです。
先程、売掛金回収の弁護士費用の相場のところで説明したとおり、弁護士の料金や費用は頼む事件・手続の種類によってかなり変わってきます。
簡単に図示すると次のような感じです。
訴訟>交渉≧支払督促≧内容証明郵便の作成
もちろん弁護士費用の定め方は弁護士ごとに異なる部分があるため、一概に言えない部分はありますが、一般的には訴訟を依頼するよりも交渉や支払督促を依頼するほうが弁護士費用は安くおさえることできます。内容証明郵便の作成だけであればさらに費用を節約できるケースが多いでしょう。
もちろん、費用が安い手続を弁護士に依頼する場合にはそれなりのデメリットもあります。
たとえば、交渉や内容証明郵便の作成であれば、それによって相手方が任意に未払分を支払ってくれればよいですが、無視したり強硬に支払を拒んだりされてしまう可能性があります。
その場合、売掛金を回収するためには別途法的な手続をとる必要が出てきます。
支払督促の場合も同じで、相手方から異議が出ると訴訟に移行することになるので、その時点で弁護士に訴訟対応を依頼するかどうかを検討しなければなりません。
他方、訴訟の場合は証拠さえ固まっていれば多少時間はかかっても未払金の支払を命じる判決を取るところまでいけますし、その判決を使って強制執行という手に出ることも可能です。
このように、どの手続で弁護士に頼むかは相手方の出方を読んで検討する必要があります。単に費用の安さだけで選ぶとかえって余計な時間や費用がかかることもあるので、依頼前に弁護士によく相談するとよいでしょう。
弁護士費用をおさえる方法② 本人訴訟で対応する
交渉、支払督促、内容証明郵便ではなく訴訟が適切なケースであっても、その対応方法には2通りがありえます。
- ■ 弁護士に訴訟手続の代理を依頼する
- ■ 弁護士を代理人とせずに自社(自分)で訴訟を進める
このうち、後者の自分で訴訟を進める方法を「本人訴訟」と呼びます。
本人訴訟の場合、弁護士に訴訟手続を依頼しないため当然ながら着手金・成功報酬などの弁護士費用は基本的に発生しません。
そのため、弁護士費用の負担が重いときは本人訴訟で売掛金回収を進めることで費用負担を相当おさえることができます。
もちろん、本人訴訟にはデメリットもあります。主な難点を挙げると次の通りです。
- ■ 裁判所に自分(会社代表者)が出頭しなければならない
- ■ 裁判所に提出する書類を自分で作成・準備しなければならない
- ■ 証人尋問や当事者尋問の手続で不利となる
- ■ 和解交渉を自分で進める必要がある
つまり、弁護士に依頼することで全て弁護士がやってくれる裁判上の手続を自分で行わなければならないということです。
そのため、事件の内容が複雑だったり、契約書などのしっかりした証拠が揃っていないような事件の場合、本人訴訟で進めるのはかなり難しいでしょう。
一方、証拠がしっかり揃っている契約について売掛金の回収を進める場合、本人訴訟も十分選択肢に入ります。
本人訴訟で進める場合であっても弁護士に一切頼らないのではなく適切なタイミングでアドバイスやサポートを受けながら進めるのが望ましいでしょう。そのためには法律相談料や文書の作成手数料など、一定の弁護士費用がかかることになりますが裁判を滞りなく進める上でメリットは大きいです。
どのようなケースで本人訴訟を選択するのが望ましいか、本人訴訟ではどのような点に注意して進めたらよいか、本人訴訟について弁護士の助力を求めるタイミングはいつか、など詳しくはこちらの書籍にまとめています。
本人訴訟で売掛金回収を進めることを検討している企業にとって役立つ実践的なノウハウを解説していますのでぜひ手に取ってみてください。
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弁護士費用をおさえる方法③ 弁護士の顧問契約を利用する
方法①と②は主に単発で弁護士に売掛金回収を依頼する場面を想定していました。
しかし、業種によっては小口の取引先が多数あり、未払の売掛金も定期的に発生するというケースもあるでしょう。
そのような場合、単発の売掛金回収をその都度弁護士に依頼すると、着手金の負担が重くなりがちです。特に、数万円程度の小口の売掛金の場合、弁護士が定める着手金の最低額によっては着手金だけで足が出てしまうというケースも多いはずです。
このように定期的に、比較的少額の未払代金債権の回収のニーズが生じる企業の場合、弁護士との顧問契約を上手く活用することで費用負担をおさえつつ売掛金回収を進めることができる場合があります。
顧問契約とは、弁護士を自社の顧問弁護士として、継続して相談をすることができる契約のことです。
しかし、この顧問契約の中身は弁護士によって異なりますし、顧問先となる企業のニーズに応じてカスタマイズ、オーダーメイドでサービス内容を考えてくれる弁護士も多いでしょう。
たとえば、月額顧問料を払う代わりに継続的に発生する売掛金回収については1件あたりの着手金を無料としてもらったり、または割引を適用してもらえるような顧問契約を弁護士と結ぶことができれば売掛金回収を弁護士に依頼しやすくなります。
もちろん、顧問料という形で毎月固定の支出が生じることになるので本当に自社にとって得な契約といえるかどうかしっかり吟味する必要があるでしょう。
顧問契約を利用して売掛金回収を効率化したいという場合はそのような希望を詳しく弁護士に伝えた上で適切な顧問契約プランを考えてもらうことが大切です。その場合、一人だけでなく、複数の弁護士に相談してプランの提案・見積もりを受けると満足のいく顧問契約を結ぶことができるでしょう。
まとめ―売掛金回収は自社の状況に応じて弁護士の依頼の仕方を検討する
以上、この記事では売掛金回収を弁護士に依頼する場合の具体的な手続の種類や弁護士費用の相場、そして費用をおさえる具体的な方法について解説しました。
弁護士の費用は高額というイメージがあるため、金額が小口の場合、相談をためらってしまいがちですが、弁護士への依頼の方法を工夫することで弁護士費用をおさえつつ法律サービスを受けることが可能です。
この記事で書かれていることを参考にしつつ、まずは弁護士に相談をしてみることをお勧めします。
中小企業・自営業者の方が効率的かつリスクをおさえて裁判を進めるノウハウについてはこちらの書籍で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。