弁護士の手数料について
こんにちは。弁護士の谷直樹です。
私は長崎で中小企業を主なクライアントとする法律事務所「長崎国際法律事務所」を開設して弁護士として業務を行っています。
自分の事務所での業務のほかにも「長崎県知財総合支援窓口」で専門家として配置されて地元企業の知財に関する相談対応を行っています。
この知財総合支援窓口は知財に関する相談を無料で受けることができるとても良い制度ですので特許、商標、意匠、著作権、営業秘密といった知的財産に関するお悩みがある方はぜひ利用してみてください。
さて、この記事では弁護士の料金のうち「手数料」について解説します。
実は私が弁護士として知財に関する案件を受任するとき、よく使うのがこの手数料という料金です。
弁護士の手数料にはどんな特徴があるのか、費用の相場、安く抑えるコツなどを解説していきますので弁護士から「手数料が〇〇円です」という見積もりを出してもらった企業の方はぜひお読みください。
なお、弁護士に裁判を依頼するときの着手金を安くおさえるノウハウについてはこちらの記事に詳しく書いています。
目次
弁護士の料金の種類と手数料の特徴
弁護士に案件の処理を依頼するときに発生する料金には主として次の5種類があります。
- 着手金
- 成功報酬
- 手数料
- 日当
- 時間制報酬(タイムチャージ)
着手金と成功報酬が一番よくある料金です。たとえば弁護士に裁判対応を依頼した場合は依頼時に着手金、終了時に成功の程度に応じて成功報酬が発生するという料金体系で契約をすることになるのが普通でしょう。
これに対して、手数料は裁判よりももっと小さめの案件の対応を弁護士に依頼するときに使われることの多い料金です。
たとえば、次のような案件を弁護士に依頼する場合、手数料という形で料金が発生するケースが多いはずです。
- 契約書のリーガル・チェック(レビュー)
- 契約書の作成(ドラフティング)
- 内容証明郵便の作成
- 相続放棄申述書の作成
- 法令や規制についての調査の依頼や意見書の作成
上はあくまで一例です。これ以外にも弁護士によっては手数料で事件処理を引き受けるケースもあるでしょう。
共通しているのは裁判などと比べると短期間で処理が終わる事務であること、比較的定型的な処理が可能であり、成功・失敗という違いが生まれにくい案件であること、が特徴です。
逆に言うと、裁判のように完了までに時間が長くかかり、しかも弁護士の力量によって成功・失敗が分かれるような案件については着手金と成功報酬の組合せでの契約になります。
すごく単純化すると、手数料という形で弁護士が事件処理を引き受けるのは成功報酬を取るのが適切でないような比較的小規模な案件、と理解しておくよいかもしれません。
手数料には案件の種類ごとに相場がある
では、弁護士の手数料には相場というものがあるのでしょうか。
結論から言うと、相場というものはあります。
しかし、全ての手数料について当てはまる相場というものはありません。
というのは、手数料が発生する案件には本当に様々な種類のものがあり、その種類ごとに相場があるためです。
相場については比較的簡単に調べる方法があります。それは日弁連が定めていた弁護士の報酬に関するルール「弁護士報酬基準」を参考にすることです。
この弁護士報酬基準、現在はその内容に拘束力はありません。そのため、弁護士は自由に料金を設定することができます。
しかし、昔から使われていた報酬基準を引き続き使っている弁護士が大多数であるため、この報酬基準が弁護士の費用の相場になっています。
報酬基準はネット上で公開されており誰でも見ることができるので弁護士への依頼を考えている方は目を通してみてもよいでしょう。ただ、用語など若干独特の部分があるため少し読むのにコツや予備知識が必要かもしれません。
契約書の作成(ドラフティング)の手数料は5万円~
まず、弁護士に契約書の文案の作成を依頼する場合の手数料です。これは日弁連の報酬基準では次のように定められていました。
【定型の契約書の場合】
- 経済的利益の額が1000万円未満→5万円~10万円
- 経済的利益の額が1000万円以上1億円未満→10万円~30万円
- 経済的利益の額が1億円以上→30万円~
【非定型の契約書の場合】
- 経済的利益の額が300万円以下→10万円
- 経済的利益の額が300万円を超え3000万円以下→1%+7万円
- 経済的利益の額が3000万円を超え3億円以下→0.3%+28万円
- 経済的利益の額が3億円超→0.1%+88万円
このように報酬基準では契約書が定型か非定型かで料金体系が分かれています。
定型というのは雛型やテンプレートが出回っているような一般な契約書、
非定型というのは雛型等がなく弁護士が一からドラフティングする必要のある特殊な契約書、と考えるとよいと思います。
また、報酬基準では「特に複雑または特殊な事情がある場合」は上に書いた基準を使わずに依頼者と弁護士が協議して金額を定めてよいとされていました。
さらに、作った契約書を公正証書にする場合、手数料が+3万円となることも報酬基準には定められていました。
ただ、この報酬基準に基づく手数料は現在の感覚からすると若干高めだと思います。
というのは昔ならいざ知らずインターネットで検索すればかなり出来の良い契約書のテンプレートがいくらでも無料で見つかる現在では契約書作成のハードルがかなり下がっているからです。
そのため今であれば上で書いた手数料よりもかなり安い金額で契約書のドラフティングを請け負ってくれる弁護士も増えているはずです。
まとめると、契約書の作成については1通につき5万円~が一応の相場と見ておくとよいと思います。ただ、この金額よりも安く対応してくれる弁護士も増えてきているので費用をおさえたい場合は複数の弁護士から見積もりを取ってみるとよいでしょう。
内容証明郵便の作成手数料の相場は1万円~5万円
次に、これも弁護士に依頼することの多い案件ですが内容証明郵便の作成です。
内容証明郵便というのは送った文書に書かれていた内容を郵便局が後から証明してくれるというサービスであり、裁判などの法的手続に入る前に弁護士はよくこれを相手方に送ります。
内容証明郵便を送るということは、「そこに書かれた内容について後で裁判の証拠にするつもりだぞ」という意味が込められています。
そのため内容証明郵便は裁判の予告のような意味合いがあり、これが送られてくるということは何らかの対応をしないと裁判を起こされてしまう可能性が高いということですから相手方に心理的プレッシャーをかけることができます。
当人同士で連絡をやりとりしていたときはのらりくらりとしていた相手でも弁護士の名前入りの内容証明郵便が送られてくると交渉の席に慌てて着く、ということも決してめずらしくはありません。
そのため、裁判に先立って交渉で片をつけたいというケースには弁護士にとりあえず内容証明郵便の作成を依頼するというパターンがわりと多いはずです。
この内容証明郵便の作成の手数料について日弁連の報酬基準では次のように定められていました。
【弁護士名の表示なし】
- 基本→1万円~3万円
- 特に複雑または特殊な事情がある場合→弁護士と依頼者の協議により定める額
【弁護士名の表示あり】
- 基本→3万円~5万円
- 特に複雑または特殊な事情がある場合→弁護士と依頼者の協議により定める額
弁護士名の表示のアリ・ナシで手数料のレンジが変わってくることがおわかりになると思います。
弁護士名の表示があるということはつまり弁護士があなたの代理人として内容証明郵便を送ってくれるということです。
普通、内容証明郵便を代理人として送る場合、「本件についての連絡は代理人弁護士宛てに行ってください」という文面を入れますから弁護士が対応の窓口になるケースが多いです。そのため、上記の手数料には弁護士がこうした代理人として動くことに対する料金も含まれているケースが一般的と思います。
一方、弁護士名の表示がない場合、文面については弁護士が法的に問題のないしっかりした書面を作ってくれるものの、発送するときはあくまでも依頼者の名前で内容証明郵便を送るということになります。そのため、当然ながら「交渉は弁護士を通して」と言うことはできません。その分、相手方への牽制力も弱まります。その代わり、手数料の額が多少安くなる、と理解しておくとよいでしょう。
内容証明郵便の作成については弁護士名を入れるかどうかによって違いがあるものの、概ね1通当たり1万円~5万円が相場と見ておけばよいと思います。
手数料はかなり幅があるので複数の弁護士から見積もりを取る
裁判対応などと比較すると契約書作成や内容証明郵便の作成の手数料などには弁護士ごとにかなり料金の幅があります。
特に契約書のうち英文契約書や知財に関する特殊な契約書などは弁護士ごとに料金のバラつきが大きいと思います。
そのためリーズナブルに弁護士のサービスを利用するために最初に相談した弁護士にそのまま依頼するのではなく複数の弁護士に見積もりを出してもらって比較することが非常に大切です。
そのほか、たとえば契約書に関して言うと、一から弁護士に作成を依頼するのではなく自社で一応のドラフトを作り、それをチェックしてもらう、という形で弁護士を利用するとかなり費用をおさえることができる可能性があります。
そのほか、手数料の額をおさえるためのノウハウについては中小企業向けの弁護士の使い方を解説したこちらの書籍で詳しくまとめていますので興味のある方はぜひ手に取ってみてください。この本で書かれている知識を身につけておくと、弁護士の使い方がかなり上手くなるはずです。