顧問弁護士
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顧問弁護士とは「継続的な法律サービスを提供する弁護士」
弊所に相談に見える経営者の中には弁護士との顧問契約を検討中の方もいらっしゃいます。「今まで顧問弁護士をつけていなかったけど、やっぱりつけたほうがいいんでしょうか?」漠然とそのように感じている方は多いかもしれません。
顧問契約とは、簡単に言うと「特定の弁護士から継続的な法律相談などの法律サービスを受ける」という内容の契約です。顧問弁護士とは、この顧問契約を結んでいる弁護士のこと、すなわち「自社(顧問先)のために継続的な法律サービスを提供する弁護士」を意味します。
本ページでは、これまで弁護士と顧問契約を結んだことのない中小企業や小規模事業者の方々向けに顧問弁護士のメリット、顧問契約を結ぶ上での注意点などを解説します。すでに顧問弁護士をつけている企業の経営者にとっても顧問契約の費用対効果を見直す際に有益な情報ですので是非一読ください。
実は顧問契約の中身は決まっていない
一口に弁護士との顧問契約と言っても、そのサービス内容について具体的なイメージを持たれている方はむしろ少ないかもしれません。実は、顧問契約の具体的な中身は法律などで決まっているわけではありません。各弁護士、各法律事務所が顧問契約のサービスの中身を独自に決めています。
一般的に弁護士の顧問契約に含まれるサービスとしては次のようなものが挙げられます。
●優先的に法律相談が受けられる ●電話・メール等の対面以外の方法でも法律相談が受けられる ●契約書などの書面の簡易なチェック ●裁判対応などを依頼する場合の費用の割引 ●従業員などへの研修やセミナーの提供 |
多くの法律事務所・弁護士の顧問契約サービスは上記の①から⑤のサービスを組み合わせたものです。逆に言うと、顧問契約というサービス名であっても、弁護士によっては①から⑤のサービスの一部が含まれていない場合もあります。また、最近は料金の異なる複数の顧問契約サービスを用意しており、料金額に応じて含まれるサービスが違う場合もあります。
したがって、弁護士との顧問契約を検討される際はまず候補の弁護士・法律事務所の顧問契約には具体的にどんなサービスが含まれるかをきちんと確認することが重要です。
顧問契約を結んでも裁判までの全てを料金内で処理してもらえるわけではない
顧問弁護士というと、その会社の法律問題を全て処理してもらえるというイメージを持つ経営者の方もいるかもしれません。しかし、実際には月額の顧問料だけで顧問先の裁判対応などまで行うのは非常にまれです。裁判対応を行う場合のほとんどは顧問料とは別に着手金・成功報酬などの弁護士費用を請求するという契約条件になっています。
顧問先の会社からの依頼の場合、裁判対応などにかかる弁護士費用を割引する場合が多いでしょう。顧問弁護士を雇って裁判対応を行わせる場合、この料金割引がメリットの一つとなります。
割引の有無や割引率は法律事務所によってまちまちですが、10%~30%くらいの範囲で割り引くという事務所が多いようです。裁判対応のための弁護士費用は数十万円(案件によってはそれ以上)になることが多いため、裁判対応が多い企業の場合は顧問契約を結んで月額顧問料を払った方が結果的にはお得になるケースもあるでしょう。
契約書や書面のチェックまでしてもらえるかは契約によってまちまち
裁判対応とは異なり、契約書などの書面のチェックについては月額顧問料の中で処理するという契約条件になっている顧問契約サービスは比較的たくさんあります。
ただ、その場合も契約書の種類、分量、言語によっては別途料金を請求するという弁護士事務所や、「月に〇時間までは相談や契約書のチェック業務を行う」などのように業務時間で線引きをしている事務所もあります。手厚いサービスがついているほど月額顧問料も高く設定されているケースが一般的ですので、顧問契約を検討される際は「毎月、どの程度の業務を弁護士に依頼するか」という点を確認し、自社の状況に合った顧問契約サービスを選ぶことが大切です。
顧問契約の料金の相場は?
弁護士と顧問契約を結ぶときに気になるのが料金(顧問料)です。サービスの中身と同様、顧問料についても決まりがあるわけではないため、弁護士や法律事務所が独自に設定しています。
ただ、料金の一応の目安になる相場のようなものはあります。弁護士の全国組織である日本弁護士会連合会(日弁連)が弁護士約2,000人に対して行ったアンケート結果から、顧問契約の料金の相場が見えてきます。
これによると、弁護士の顧問料は月額30,000円または50,000円が大半であるということがわかります。ただし、これは「月額顧問料とは別に個々の法律相談について別途法律相談料を請求する」または「電話やメール等での簡易な法律相談のみ月額顧問料の範囲で対応する」というサービス内容の顧問料の場合の目安です。回答に調査を要するような複雑な法律相談にも顧問料の範囲内で対応するというサービスの場合は月額50,000円との回答が増え、52.7%となります。
まとめると、弁護士の顧問料はその多くが月額30,000円または50,000円であり、その中でも手厚いサービスが含まれる場合には月額50,000円と設定されているケースが多いといえるでしょう。ただ、上で紹介した日弁連のアンケートは2009年に実施されたものなので、現在はそれよりも低額な顧問料を設定する弁護士・法律事務所も増えていると考えられます。
いずれにしても顧問契約の導入を検討される場合は、上記の料金相場をふまえた上で費用だけでなくサービス内容も含めそのコスト・パフォーマンスを考える必要があるでしょう。
顧問弁護士をつけるメリット
上で説明したように「顧問契約」や「顧問弁護士」と言ってもそのサービス内容は様々です。顧問弁護士をつけるメリットも、どのような顧問契約を結ぶかによって変わってくる面がありますが、中小企業が顧問契約サービスを利用するメリットとしては次のものが挙げられます。
①自社の状況をよくわかっている弁護士に継続的に相談できる ②法律相談や裁判対応の依頼を優先的に受けてもらえる ③裁判対応や契約書作成などのサービスを割引料金で受けられる |
①の「自社の状況をよくわかっている弁護士に継続的に相談できる」という点は顧問契約を結ぶ際に最も大きなメリットと言えます。企業の法律問題の場合、自社の事業内容や取引先との関係などをしっかり把握している弁護士に相談したほうが適切なアドバイスをもらえる可能性が高まります。裁判など問題が起こったときだけスポット的に弁護士に依頼するのでは、会社の情報について弁護士の側もアップデートできていないためアドバイスが的を外したものになってしまうかもしれません。顧問契約を結んで日頃から弁護士に相談を行うことで大きな法的問題が起きたときもスムーズに解決を図ることができます。
また、②の「法律相談や裁判対応の依頼を優先的に受けてもらえる」という点も重要なメリットです。顧問先の企業の法律相談や裁判対応の依頼は他の案件よりも優先的に引き受けるという法律事務所が多いため、緊急に対応が必要な法律問題が出てきた場合には顧問弁護士がいると安心です。
③の弁護士費用の割引についてはすでに説明したとおりですが、顧問契約サービスによって割引の有無や割引率が異なるため契約内容を確認した上で顧問契約を結ぶ必要があります。特に裁判対応などの法律業務が多い企業の場合は弁護士費用の割引があることで結果的に法務コストを減らすことができる場合があります。
中小企業が顧問弁護士を探すときのポイント
特にこれまで顧問弁護士のいたことのない企業が新たに顧問弁護士をつけようとする場合、どのような点に注意したらよいのでしょうか。そのポイントは大きくわけて4つあります。
①企業法務を重点的に取り扱う弁護士を探す ②社内で生じやすい法的問題について専門分野とする弁護士を探す ③サービス内容と料金について複数の候補先を比較する ④弁護士の相談しやすさや説明の丁寧さなどを確かめる |
まず、①として、会社や企業が顧問弁護士を探す場合、企業に関する法律分野を重点的に取り扱っている弁護士を候補としたほうがよいでしょう。弁護士の中には取り扱う業務が家事事件や交通事故など個人間のトラブルがほとんどというケースもめずらしくありません。ベテランの弁護士でも企業に関する法律問題にはそれほど詳しくない場合もあります。そのため、中小企業が顧問弁護士を探すときは何よりもまず企業法務(企業に関する法律問題)を重点的に取り扱う弁護士を探すことが重要で
また、同じく企業法務を扱っている弁護士であっても得意とする法律分野には微妙な違いがあることがほとんどです。一口に企業の法律問題と言っても、次に挙げるように様々なものがありえます。
●株主総会対応や定款変更などの会社法に関する問題 ●会社の従業員の解雇や懲戒処分など労働法に関する問題 ●契約書の作成やチェックなど契約法務に関する問題 ●特許やライセンス契約など知財に関する問題 ●海外展開や外国企業との取引など国際法分野に関する問題 |
これら全ての問題について完璧に精通している弁護士というのは実際にはいません。複数の弁護士が在籍している法律事務所であっても、事務所ごとに得意・不得意があります。そのため、顧問弁護士を選ぶ際は「自社内ではどのような法律問題が起こりやすいか」、「弁護士に相談するとしたらどのような問題が多いか」を確認し、その法律分野を得意とする弁護士や法律事務所を候補に選ぶのがよいでしょう。
候補となる弁護士をいくつか選定した場合、それぞれについて顧問契約サービスの内容と料金を比較します。これが上記③のポイントです。先程も説明したとおり、弁護士の顧問契約サービスは内容も料金も弁護士・法律事務所によって様々です。そのため複数の候補を比較して自社に最も適したところを選ぶ作業が不可欠です。顧問契約は半年や1年など長期にわたる契約になることが多いため、後で後悔しないためにも最初の選定の段階で複数の候補から吟味することをお勧めします。
最終候補を絞り込んだ後、最終的にどの弁護士に決めるかという点ですが、これは弁護士と実際に話をしてみて話しやすさや説明の丁寧さを見て決めるのがよいでしょう。顧問契約は長期にわたって同じ弁護士と関係を築いていくことになります。いくら優秀で専門性のある弁護士だったとしても、相談をする側が話しにくいと感じたり、説明がわかりにくい相手であれば、長い目で見ると後悔や不満が出てきます。顧問契約の締結前に単発の法律相談や契約書の作成・チェックなどの仕事を依頼してその仕事ぶりを見てみるというのも有効な手段です。
弁護士との顧問契約を結ぶ際の注意点
顧問契約を依頼する弁護士を決めた後、その弁護士との間で顧問契約を締結することになります。近時は顧問契約を結ぶときに口頭だけでやりとりをし、契約書を作らないという弁護士はいないとは思いますが、口約束だけの契約では後から顧問契約の内容に疑義が生じてしまうおそれがあるため、必ず顧問のための委任契約書は結ぶようにしましょう。万一、契約書を結ばずに済ませようとする弁護士だったとしたら、その弁護士への依頼はとりやめたほうがよいと考えます。
弁護士との顧問契約では弁護士側が契約書の案を作成することがほとんどですが、契約書の内容は弁護士任せにせずにきちんとチェックすべきです。契約書のチェックのポイントを以下に挙げておきます。
●顧問契約に含まれるサービスが全て明確に記載されているか ●月ごとの作業時間の上限が決まっている場合、未使用分の時間を翌月以降に繰り越せるか ●途中解約ができるか |
特に途中解約ができるかどうかは、万一、顧問契約締結後に顧問弁護士に不満が出てきた場合にスムーズに顧問弁護士を変えられるかどうかに関わってくるため重要です。
弁護士との顧問契約を終了したり顧問弁護士を交代する際のポイント
顧問弁護士を雇ったとしてもその後ずっとそれを継続しなければならないというわけではありません。
もちろん同じ顧問弁護士と長く関係を築いたほうが自社のことをよく把握してもらえるため的確なアドバイスがもらえるというメリットはあります。しかし、時間が経つにつれて会社の事業内容や組織体制が変わるなどして弁護士に相談する法律分野も変わってくることはめずらしくありません。たとえば、創業からそれほど時間が経っていない若い企業の場合、社内の契約書の整備などが中心であったのが会社の規模が大きくなって従業員が増えたために労務に関する法律相談が増える、といったケースです。また、新たに海外展開を行うことになり英文契約書の作成や国際取引に関する相談が増えるといったケースもあります。
この場合、単に「昔からのなじみの顧問弁護士だから」という理由で顧問弁護士を変えないというのは自社にとって良いこととは言えません。顧問弁護士自身にとっても得意でない分野の相談が増えてくると対応に過大な負担が生じます。そのため、顧問契約は定期的に見直し、必要に応じて他のより適切な弁護士に交代する必要があります。
顧問弁護士を交代する場合、対応中の裁判手続など継続中の案件についてきちんと新しい弁護士に引き継いでもらうということが重要です。そのため、数ヵ月間は元の顧問弁護士と重複する形で新しい顧問弁護士を雇うということも一考に値します。複数の顧問弁護士をつけることは禁止されることではありません。顧問契約が重複している期間に元の顧問弁護士から新しい顧問弁護士に継続案件について引継ぎをしてもらい、新しい顧問弁護士に社内の法律問題をきちんと把握・理解してもらうと安心です。
顧問弁護士に関するまとめ
本ページでは中小企業が顧問弁護士を依頼するメリットと顧問契約サービスの利用上の注意点を解説しました。
大企業と異なり法務部など法律問題を扱う専門の部署を持たないことが多い中小企業の場合、社内で何か大きな法的問題が発生すると社長自身が対応にあたることもめずらしくありません。また、契約書の作成・チェックなど深刻度の低い問題については営業担当者などが本業の片手間に対応しているケースも多いでしょう。しかし、これは業務の効率性・確実性の観点からはマイナスです。
顧問弁護士をつけることで中小企業は法律問題の対応を気軽に弁護士という専門家に任せることができ、本業であるビジネスに専念しやすくなります。顧問契約サービスの内容や弁護士の得意分野を見極めた上で顧問契約を結ぶことで会社・企業はこれまで以上にビジネスを円滑に進めることができるようになります。
次頁では弁護士費用について解説します。