特許を取得するために

特許とは「高度な発明に対して与えられる独占的な権利」

製造業をはじめとする、いわゆる物作り系の中小企業にとって特許という言葉は比較的なじみのある言葉ではないかと思います。本ページでは特許について基本的な知識を説明するとともに、中小企業が特許を活用する上で役立つポイントを解説します。
まず、特許とはそもそも何かという点ですが、これは特許法という法律で決められています。

特許法2条
1 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。
(以下省略)

上の条文からは、特許とは発明に対して与えられるものであること、そして発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうということがわかります。条文をそのまま読んでもわかりにくいためごく簡単に説明すると、特許とは、いわゆる発明のうち高度のものに対して与えられる権利ということです。

そして、特許を与えられた発明については特許法により、特許権者に対してその特許発明を独占的に使用できる権利が与えられることになります。

特許法68条
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

つまり、特許とは高度な発明に対して与えられる独占的な権利のことです。

特許は一定の要件を満たす発明だけに認められる

では、特許が与えられる高度な発明とはどんなものをいうのでしょうか。これは特許法を読むだけではわかりにくいのですが、一般に次の5つの要件を全て満たす場合に発明に対して特許が与えられるとされています。

  • ①産業上の利用可能性
  • ②新規性
  • ③進歩性
  • ④先願
  • ⑤公序良俗を害するおそれがないこと

①産業上の利用可能性とは、発明が産業上利用可能なものであるということを意味します。通常、企業がビジネスのために行う発明であればこの産業上の利用可能性を満たすため普通は問題とならない要件です。ただし、純粋に学術的な発明や、理論としては成り立ってもおよそ実現不可能な発明の場合はこの要件を満たさないと判断される場合もあります。また、手術、治療、診断に関する発明は「営利を主目的とする産業とはいえない」という理屈で特許の対象外とされることがあるため注意が必要です。

②新規性③進歩性はあわせて理解するとわかりやすい要件です。まず、発明は一般に世の中に知られていないものでなければなりません。特許の出願を行う前に世の中に知られた発明は②の新規性を欠くという理由で特許を受けることができません。また、その発明自体は世の中に知られていなかったとしても、その技術分野の業界内の人間であれば簡単に思いつくような発明であれば③の進歩性を欠くという理由でやはり特許を受けることはできません。

④先願とは、その発明について自分より前に特許を受けるために出願を行った者がいないということです。つまり自分が一番先に出願しないと特許を受けることはできないということになります。

⑤公序良俗を害するおそれがないことという要件は、発明が犯罪等の反社会的な活動を助長するようなものであってはならないという意味として理解できます。たとえば、偽札の製造機械や麻薬等の禁止薬物の製造方法に関する発明などは公序良俗を害するおそれがあるとして特許を受けられない可能性があります。もっとも、企業が普通にビジネス目的で行う発明の場合はこの要件で引っかかることはまれでしょう。

特許をとれるかどうかのポイントは新規性と進歩性


このように特許の要件は5つに分けられますが、企業が特許をとることを検討する際に問題となることが多いのは新規性と進歩性の要件です。発明がすでに世の中に知られていたり、自社と同じ業界の人間であれば容易に思いつくような内容だと判断されたりすると、その発明について特許をとることができません。この2つの要件をクリアできないと、自社がどれだけ研究開発費をつぎ込んで生み出した発明だったとしても特許という独占的権利を取得することができないという結論になります。

そのため、特に研究開発費に回すお金が限られている中小企業が新たな技術開発を行う場合は事前に特許の要件を満たすかどうかということを検討しておくことが重要となります。これから研究開発を行う技術が新規性・進歩性を満たす見込みがあるかは一般に次のような方法で調査・検討します。

  • ①過去の特許・実用新案の出願状況・内容を調査し、これから開発しようと思っている技術が過去に出願された発明の範囲に含まれないかを検討する
  • ②自社の業界の技術分野に属する学術論文などを調査し、これから開発する技術についてすでに論文発表等の形で世に出ていないかを検討する
  • ③技術開発を担当する社内の研究職・技術職の間で意見交換を行い、これから開発予定の技術が業界内の技術常識から考えて進歩的なものといえるかどうかを検討する

有望な研究・開発分野を探す特許情報調査

上記のうち特に重要なのが①の出願状況等の調査です。これは先行技術調査という呼ばれ方をすることもあります。実は日本で特許出願された発明は全て出願後一定の期間が経過すると一般公開されます。この公開された特許情報は工業所有権情報・研修館の運営する特許情報データベース「J-Plat Pat」でインターネット閲覧が可能です。

大手の機械メーカーなど、研究開発に力を入れている企業の多くはこのように一般公開された特許情報を分析して注力すべき研究開発の分野を探しています。たとえば、自社が新たにどの分野に研究開発費を投じるかを決める際、データベースを分析し、すでに他社が強固な特許網を作っており、参入が難しいと考えられる分野は除外する、といった使い方が考えられます。

小規模な会社の場合、自社内だけでそこまで精密な分析を行うことは難しいかもしれませんが、少なくとも研究開発の早い段階で弁理士に相談するなどして特許取得の可能性を確認しておくことは非常に有効です。こうした依頼を受けた弁理士は上で述べたデータベース等の分析を行い、特許取得の可能性がどのくらいあるかアドバイスしてくれます。

こうした特許情報の分析は費用や労力がかかりますが、自社が投じる研究開発費全体に比べれば少ない金額です。多額の研究開発費を投じた後になって特許取得の可能性がないことが判明すると、その研究開発を前提としたビジネス自体の方向性も考え直さなければならなくなり、研究開発費自体が全て無駄になってしまうこともあります。そう考えると、多少の費用をかけたとしても早期に特許取得の可能性を探っておくことは資金面に不安のある中小企業だからこそ必要な方策といえるでしょう。

特許取得のためには出願が必要

特許に関して必ず覚えておく必要があるのは、「特許をとるためには必ず出願が必要」ということです。先程挙げた特許の要件を全てクリアする発明だったとしても、適切な手続を踏んで出願を行い、登録を受けなければ特許という権利は発生しません。

このことは同じく知的財産権に分類される著作権と比較するとわかりやすいでしょう。著作権の場合は著作権法で定められた著作物の要件をクリアすれば、特に出願・登録といった手続を要することなく自動的に著作権という権利が発生します。

特許の出願は所定の様式の願書を作成して特許庁に提出することで行います。出願の方法には紙の書類を作って提出する方法とインターネット出願の方法の2種類があります。特許の出願から登録までの流れは次のようになっています。

手続の流れのポイントは、出願人の側で「特許出願」と「出願審査請求」という2段階の申立てを行う必要がある点です。特許出願を行うと、その発明について出願日が登録されることになりますが、それだけでは特許登録されることはありません。あくまでも、その後に出願審査請求を行って特許の要件を満たすかどうかを審査してもらう必要があります。特許出願から出願審査請求までは3年以内に行う必要があり、この期間を過ぎると出願は取り下げられたものとして扱われます。この場合、当然、特許登録を受けることはできません。

特許出願だけを行って出願審査請求はしないケースもある

このように特許登録を受けるためには出願だけでなく必ず審査請求まで行う必要があります。しかし、特許出願だけを行って出願審査請求はしないというケースも実は珍しくありません。たとえば、次のようなケースでは特許出願だけを行い、3年の期間を経過するまで出願審査請求は行いません。

  • ①出願後に文献調査等により特許要件を満たさないことが判明したケース
  • ②出願後に自社の事業戦略や市場の状況が変わったため特許が不要となったケース
  • ③出願の時点で特許登録を受けることは予定していなかったケース

①、②は出願後の事情によって特許登録を行わないケースです。後で説明するとおり、出願審査請求を行う場合にも費用がかかることから、特許登録の見込みがなかったり、その必要性がなくなったりした場合は出願審査請求を行わないほうがコスト面で有利です。

これに対して、③はやや特殊なケースです。これはもともと特許を取得することは考えておらず、単に「特許出願中」ということをマーケティングが営業に使うことを意図していたケースです。

特許出願を行っていたとしてもその技術や発明が優れているとか、特許登録が認められるとかいうことの証明にはなりませんが、消費者に「特許出願中」というフレーズがあると、「何か優れた技術を使っているようだ」という印象を持ってもらえる可能性があります。③はこのような宣伝広告的な効果を意図して特許出願を行うケースです。

特許登録に必要な費用

では、特許登録を行うためにはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。これについては、①出願や審査請求などの手続を行ってもらうために特許庁に対して支払う費用と、②これらの手続や書面作成を弁理士に依頼するためにかかる費用に分けて考える必要があります。

①特許庁に支払う費用②弁理士に支払う費用
出願料先行技術調査費用
審査請求料代理人費用
特許料

①の費用は弁理士に手続を依頼するかどうかに関わらず必ず必要となる費用です。これに対して、②の費用は弁理士に依頼する場合にかかる費用です。なお、②の費用のうち、先行技術調査費用は出願に先立って弁理士に特許情報や文献などを調査してもらう場合にかかる費用です。こうした先行技術調査費用は必ず必要なものではありませんが、効果的な特許を得るためには有用であるため依頼を検討するのがよいでしょう。

①の費用は金額が決まっているため事前に費用の予測を立てることが比較的容易です。以下に種類ごとに費用額を示します。

費用の種類金額
出願料14,000円
審査請求料138,000+(請求項の数×4,000円)
特許料(1年~3年)
年額2,100円+(請求項の数×200円)
 
(4年~6年)
年額6,400円+(請求項の数×500円)
 
(7年~9年)
年額19,300円+(請求項の数×1,500円)
 
(10年~20年)
年額55,400円+(請求項の数×4,300円)

それぞれの費用について簡単に説明します。まず、出願料は特許出願を行う段階で納付する費用です。金額的には後でかかる審査請求料と比べてかなり低めに設定されています。

審査請求料は出願から3年以内する必要のある審査請求を行う際にかかる費用です。審査請求料の特徴は請求項の数によって費用額が変わる変動制がとられている点です。請求項とは、特許の対象として保護される発明の範囲を決めるものです。特許による保護は原則として請求項に書かれた発明にだけ及ぶため、請求項をたくさん入れることで特許の保護の範囲もそれだけ広がります。他方、審査請求料は変動制がとられているため、請求項を増やすほど費用が高額になります。そのため、十分な保護範囲を確保しつつ費用が無駄に高額にならないよう適切に願書を作成する必要が出てきます。

特許料は審査請求に対する審査の結果、特許の要件を満たすとの判断が出た後に納付する費用です。特許料を納付することでその発明は特許を取得することになります。特許料についても請求項の数に応じて費用が変わる変動制がとられています。また、特許を維持する年数が増えるほど特許料の金額も増えていくという特徴もあります。以上の費用に加え、特許としては認められない旨の特許庁の判断(拒絶査定)に対する再審請求を行う場合などにも別途所定の費用がかかります。

このように特許庁に納付する費用は金額が決まっていますが、弁理士に依頼する場合にかかる費用は依頼する弁理士によって料金設定が様々です。発明の種類や内容、請求項などの数によっても料金が変わってくる場合がありますので依頼前に複数の弁理士から見積もりをとった上できちんと料金について説明を受けておくことが非常に大切です。